PlayStation 2(PS2)用ゲーム『ICO』をPCやスマートフォンなどでネイティブ動作させる非公式プロジェクト『ico-pc』のバージョン0.8.6が、2026年10月24日にGitHubで公開されました。
今回のアップデートでは、新たな描画方式としてOpenGLとDirect3D 11への対応が実験的に追加されました。これにより、従来の描画方式が利用できなかった環境でも、ゲームを動かせる可能性が生まれています。
また、ゲーム内の設定画面から使用するグラフィックスAPIを選択し、その場で切り替えられる機能も導入されています。ただし、新たに追加された描画方式はまだ検証段階であり、すべての環境で正常に動作することが保証されているわけではありません。
●『ico-pc』GitHubプロジェクトページ
https://github.com/nathanialf/ico-pc
●『ico-pc』v0.8.6リリースノート
https://github.com/nathanialf/ico-pc/releases/tag/v0.8.6
VulkanやDirect3D 12に加え、OpenGLとDirect3D 11にも試験対応!
『ICO』は、2001年にソニー・コンピュータエンタテインメントから発売されたアクションアドベンチャーゲームです。独特の世界観や、少女の手を引きながら古城からの脱出を目指すゲームシステムなどで知られています。
今回アップデートされた『ico-pc』は、nathanialf氏が開発している非公式プロジェクトです。PS2版『ICO』のデコンパイルによって得られた成果をもとに、オリジナルのゲームプログラムを現行のPCなどで動作するように移植しています。
一般的なPS2エミュレーターとは異なり、『ICO』専用のネイティブアプリケーションとして動作するのが特徴です。WindowsやLinux、Steam Deck、Androidのほか、iPhoneやApple Silicon搭載Mac向けの配布物も用意されています。
これまでもワイドスクリーン表示や高解像度描画などに対応していましたが、今回のv0.8.6では、ゲーム画面を描画するための仕組みに手が加えられました。
具体的には、従来のVulkanやDirect3D 12に加えて、OpenGLとDirect3D 11が実験的に追加されています。
OpenGLはWindowsとLinux向けに実装されており、利用にはOpenGL 4.3以降に対応したグラフィックスドライバーが必要です。一方、Direct3D 11はWindows向けの機能として追加されています。
そもそもグラフィックスAPIとは、ゲームなどのソフトウェアがGPUを使って画面を描画するための仕組みです。使用するAPIによって対応するGPUやドライバーが異なるため、描画方式の選択肢が増えることで、これまで起動できなかったPCでも動作する可能性があります。
ただし、今回のOpenGLとDirect3D 11は、あくまでも実験的な実装です。古いPCでも『ICO』が遊べるようになったと断定できる段階ではありません。
ゲームを終了せずにグラフィックスAPIを切り替え可能に!
今回のアップデートでは、グラフィックスAPIを選択するための設定画面も追加されています。
従来は設定ファイルを直接編集する必要がありましたが、v0.8.6からはゲーム内の「Options」にある「Effects」から「Graphics」画面を開き、使用するAPIを選択できるようになりました。
選択肢には「Automatic」「Vulkan」「OpenGL」「Direct3D 12」「Direct3D 11」が用意されており、実際に表示される項目は利用環境や配布されているビルドによって異なります。
さらに、「Apply」を選ぶことで、ゲームを終了せずに描画方式を切り替える機能も追加されました。
切り替え後には、新しい設定を維持するかどうかの確認画面が表示されます。10秒以内に「Keep」を選択しなければ以前の設定に自動的に戻るため、画面が正常に表示されなくなった場合にも対処できる仕組みです。
また、選択したAPIで描画処理を開始できなかった場合には、その場で元の設定に戻す機能も用意されています。
なお、自動選択の「Automatic」では、従来どおりVulkanが優先されます。Vulkanで起動できない場合は、WindowsではDirect3D 12、続いてOpenGLを試す仕組みになっていますが、Direct3D 11は自動選択の対象には含まれていません。
Android版ではGPUドライバーの追加方法も改善
今回の更新では、Android版のGPUドライバー設定にも改善が加えられています。
Android端末では、GPUやドライバーの組み合わせによって描画処理に問題が発生する場合があります。そのため『ico-pc』には、端末に標準搭載されているドライバーとは別のGPUドライバーを追加する機能が用意されています。
v0.8.6では、アプリ内の「drivers」フォルダーにZIP形式のドライバーをコピーし、設定画面から追加できるようになりました。
これにより、Androidのファイル選択画面が正常に開かない端末でも、別の方法でGPUドライバーを追加できる可能性があります。
実際にGitHubのIssuesには、Android搭載ゲーム機『Retroid Pocket 6』で、フォルダーにコピーしたドライバーをゲーム内から選択できるようになったという報告も寄せられています。
ただし、ドライバーを変更することで必ずしも動作が改善するわけではありません。報告者の環境では、追加したドライバーよりも標準のVulkanドライバーのほうが良好なパフォーマンスだったと説明されています。
実際のGPUではOpenGLの動作報告も! Direct3D 11はまだ問題あり
気になるのは、今回追加されたOpenGLとDirect3D 11が、実際のPCでどの程度動作するのかという点です。
開発者のnathanialf氏は、v0.8.6の公開時点で、OpenGLについてはソフトウェアレンダラーを使用した描画結果の比較確認にとどまっており、実際のGPUでは十分に検証できていないと説明していました。
また、Direct3D 11についてはWindows実機で一度も動作確認を行っておらず、起動できなかったり、画面表示が崩れたりする可能性があると注意を呼びかけています。
その後、GitHubのIssuesには、実際に両方の描画方式を試したユーザーからの報告が投稿されています。
報告に使用されたPCの主な構成は以下のとおりです。
- CPU:Intel Core i3-2120
- GPU:NVIDIA GeForce GTX 750 Ti(1GB)
- メモリー:12GB
- OS:Windows 10
- GPUドライバー:581.80
この環境では、OpenGLへの切り替えとゲームの動作に成功しています。ただし、Vulkanでは60fpsで表示されていたのに対して、OpenGLでは30fpsにとどまったとのことです。
一方、Direct3D 11では画面が真っ黒になり、音声だけが再生される状態だったと報告されています。ログにもシェーダーのコンパイルエラーが記録されており、正常な描画には至っていません。
また、描画方式の切り替え後に設定を確定しなかった場合、10秒後に元の設定へ戻る機能についても、この環境で動作したと報告されています。
開発者はこの報告に対して謝意を示し、今後の改善に取り組む意向を伝えています。
少なくとも、OpenGLについては実際のGPUを使った動作例が確認できたことになります。ただし、これは特定のPC環境におけるユーザーからの報告であり、ほかのGPUやOSでも同様に動作することを保証するものではありません。
日本版『ICO』のゲームディスクにも対応
『ico-pc』では、欧州版や北米版に加えて、日本版『ICO』のゲームディスクにも対応しています。
日本版の対象となるディスクIDは「SCPS-11003」です。なお、日本版への対応は以前のバージョンで実現したものであり、今回のv0.8.6で新たに追加された機能ではありません。
また、本プロジェクトはソニーによる公式移植ではなく、配布ファイルに『ICO』のゲームデータも含まれていません。
利用するには、自分で所有している対応版のPS2ディスクから用意したゲームデータが必要です。ゲームデータはISO、CHD、BIN/CUEなどの形式に対応しています。
今回のアップデートで注目したいのは、単に描画方式が増えたことだけではなく、これまで利用できなかったGPUやドライバー環境でも『ICO』を動かせる可能性が生まれたという点です。
もっとも、現時点では新しい描画方式の検証が十分に進んでいるわけではなく、実際のユーザーからも不具合が報告されています。当サイトでも実機による動作検証は行っていません。
それでも、PS2時代の『ICO』をさまざまな環境で動かすための選択肢が増えていくというのは、興味深い取り組みではないでしょうか。今後のアップデートによって、OpenGLやDirect3D 11の互換性がどこまで改善されていくのか、注目したいところです。


















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