2006年に登場した『iPod Video 5.5G』を再現する新たなエミュレーター『ipod-emulator』が、GitHubで公開されました。
●GitHub:ipod-emulator
https://github.com/siggifly/ipod-emulator
単にiPod風の画面を再現したアプリではなく、実機由来のNORフラッシュダンプとApple純正IPSWを使い、リセット直後の状態からRetailOSを起動できるのが大きな特徴です。画面にiPodのメニューを表示してクリックホイールで操作できるほか、純正ファームウェアに収録されているゲーム『Brick』もプレイできます。
Apple純正のRetailOSがエミュレーター上で起動
『ipod-emulator』が対象としているのは、PortalPlayer PP5021Cを搭載した『iPod Video 5.5G』です。
本プロジェクトでは、Apple純正ファームウェアの見た目や挙動を別のプログラムで再現しているわけではありません。CPUがリセットベクターから処理を開始し、AppleのブートローダーがSDRAMや電源管理チップを初期化。パーティションテーブルを読み込み、約7.5MBのRetailOSをメモリーに転送して起動するまでの流れが再現されています。
起動したRetailOSは、RTXCカーネルと61個のタスクを開始し、ファームウェアパーティション内のFAT12ボリュームをマウント。さらに自身でFAT32ボリュームを作成した後、iPodのメニュー画面を描画します。
画面上にはiPod本体を模したインターフェイスが表示され、マウスやキーボードを使ってクリックホイール、各種ボタン、ホールドスイッチを操作できます。開発者向けのデバッグ表示に切り替えると、命令の実行回数やクロック、入力がRetailOSまで届いているかといった情報も確認可能です。

クリックホイールを操作して『Brick』をプレイ可能
現時点では、Apple純正ファームウェアの起動チェーン、ATAとDMAを利用したストレージアクセス、クリックホイール、画面表示などが動作しています。
メニューから「Extras」→「Games」と進むことで、純正ファームウェアに内蔵されているブロック崩しゲーム『Brick』も起動できます。映像だけを表示しているのではなく、エミュレーターに入力したクリックホイールの操作がRetailOSに渡され、ゲームを実際に遊べるところまで到達しているのがポイントです。
ただし、かつてiTunes Storeで販売されていたクリックホイールゲームは、現段階では起動できません。AppleのDRMによる認証で拒否されるためで、開発者はDRMがFireWire GUIDに関連付けられているところまでは把握しているものの、キーストアの仕組みは未解明としています。
そのため、「iPod向けに発売されたゲームがパソコンですべて遊べるようになった」という段階ではありません。本稿執筆時点で動作が明確に確認されているのは、RetailOSに内蔵された『Brick』です。
わずか4日間で構築。コードはClaude Opus 5が生成
驚かされるのは、プロジェクトが形になるまでの速さです。公開されている開発記録によると、作業が行われたのは2026年8月11日から14日までの4日間でした。
初日にARM7TDMIのインタープリターコアを用意し、2日目にストレージとスナップショット機能を構築。3日目にはAppleのブートローダーからRetailOSを起動させ、4日目に画面表示とメニュー操作、『Brick』の起動まで到達しています。
●GitHub:4日間の開発記録
https://github.com/siggifly/ipod-emulator/blob/master/docs/HOW-IT-WAS-BUILT.md
プロジェクトを公開したsiggifly氏は、自身ではコードを1行も書いておらず、Claude Opus 5がコードの生成とリバースエンジニアリングを担当したと説明しています。同氏は調査の方向付けや検証方法の考案、既存資料の発見、結果に対する疑問点の指摘などを担当しました。
AIが出力した内容をそのまま採用したわけではなく、Apple純正ファームウェアをテスト対象として、命令、メモリー、レジスター、実行結果を比較できる検証環境を用意しています。また、実測できず仮定している処理についても、リポジトリ内の「bypass ledger」に記録されています。
利用には所有するiPodから取得したデータが必要
『ipod-emulator』のソースコードはGPL-3.0-or-laterで公開されていますが、Appleのファームウェアやディスクイメージは同梱されていません。
実際にRetailOSを起動するには、所有するiPodから取得した容量1,048,576バイトのNORフラッシュダンプと、対応するIPSWファイルが必要です。NORダンプとIPSWの世代が一致していない場合は、RetailOSがストレージを正しく認識せず、iTunesでの復元を求める画面が表示されるとのことです。
音声や実行速度などは今後の課題
まだ開発初期のため、未実装の機能も少なくありません。Wolfson製オーディオコーデックがモデル化されておらず、現時点では音声が出ません。また、動作速度はヘッドレス実行時で実機の約30パーセント、iPod型のウィンドウを表示した状態では約19パーセントにとどまっています。USB機能や、一部のGPIO割り込みにも未対応です。
今後は、起動時に発生している長い待ち時間の解消、音声対応、JITの導入、ホールドスイッチ用GPIO割り込みの実装などが予定されています。最終的にはiPod Video 5.5Gだけではなく、iOSを採用する以前のクリックホイール搭載iPod全体への対応を目指しています。
さらに、RetailOSを介さずにクリックホイールゲームの実行環境を再構築することも、プロジェクトの大きな目標として掲げられています。すでに別の取り組みである『iPod Clickwheel Games Preservation Project』によって、iPod向けクリックホイールゲームの保全は進んでいますが、それらを遊ぶには対応する実機が必要です。
●iPod Clickwheel Games Preservation Project
https://github.com/Olsro/ipodclickwheelgamespreservationproject
『ipod-emulator』が発展すれば、入手困難になりつつあるiPod本体に依存せず、クリックホイールゲームを保存・研究するための新たな手段になるかもしれません。
※記載している対応状況は2026年8月16日時点のものです。
via.Reddit















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