タランティーノ映画がゲームになるはずだった!? 幻に終わったゲーム版『キル・ビル』の謎を追え!

タランティーノ映画がゲームになるはずだった!? 幻に終わったゲーム版『キル・ビル』の謎を追え!

先日大好きな映画『ファイトクラブ』のゲームがPS2で発売されていたことを知り入手したのですが、それとは別にほかにもいろいろなゲームがあるのか調べてみることにしました。そうしたときに目に止まったのが、Steamの画像です。

一瞬「え? Steamでキル・ビルのゲームが出てるの?」と思ったのですが、実際にはこれは映画配信サービス「Steam Video」向けのページでした。というか、映画の配信なんてやってたんですね~。じつは当時Steamは、「Steam Video」という映像配信サービスも展開していたんです。

●SteamのKill Bill: Volume 1ページ
https://store.steampowered.com/app/426470/Kill_Bill_Volume_1/

さて、それとは別に見つけたのが、実は『キル・ビル』のゲームがPS2やXbox、PCでリリースされる予定だったものの、発売中止になったという情報です。しかも単なる構想ではなく、実際にプレイ可能なプロトタイプまで制作されていたことがわかりました。

といってもゲームのプロトタイプ自体は遊ぶことはできなかったのですが、YouTubeにはそのデモプレイ映像の一部が残されており、そこでおなじみの黄色いトラックスーツに身を包んだザ・ブライドが日本刀を片手に戦っている姿が確認できます。

しかしこのゲームは、その後日の目を見ることなく消滅。さらに、この作品を開発していたスタジオ「Studio Gigante」も、ほどなくして閉鎖されてしまいます。そこで今回は、幻のゲーム版『キル・ビル』と、その背後にあったXbox時代初期の野心的な開発スタジオについて深掘りしていこうと思います。

そもそも『キル・ビル』とは何だったのか?

元々の題材となった映画『キル・ビル』は、2003年に『Vol.1』が、2004年に『Vol.2』が公開されたクエンティン・タランティーノ監督によるアクション映画です。主演を務めるのは、ユマ・サーマン。物語は、主人公のブライドがかつて所属していた暗殺集団と、そのリーダーである「ビル」への復讐を果たすというシンプルな構造の物語となっていますが、タランティーノ監督らしく随所に様々な映画のモチーフが取り込まれているなど見どころの多い作品となっています。

とくに『Vol.1』では日本が舞台になっているほか、サニー千葉や栗山千明といった日本人俳優達も出演。印象的な楽曲には、布袋寅泰の「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」が使われるなど、映像とサウンドの両方で楽しめる映画になっています。

今振り返って見ると、この『キル・ビル』自体はアクションシーンが多い映画となっており、ゲーム化とも相性のいい構造になっていることがわかります。ストーリー的にもひとりひとりに復讐を果たしていく内容となっており、まさにステージをクリアしていく感覚で物語が展開されていくのです。

ゲームを開発していたのは「Studio Gigante」

このゲームを開発していたのは、米国・シカゴを拠点に活動していた「Studio Gigante」というゲーム開発スタジオです。ただの無名の会社というわけではなく、共同設立者のひとりが『モータルコンバット』の生みの親のひとりであるJohn Tobias氏だったのです。つまり、元『モータルコンバット』開発者たちによる新世代格ゲースタジオだったというわけですね。

同スタジオの最大の代表作ともいえるのが、2003年3月18日にXbox向けにリリースされた格闘ゲームの『Tao Feng:Fist of the Lotus』でした。こちらは簡単にいうと、「Xbox版のモータルコンバットを作ろう!」というコンセプトで生まれた作品です。

その内容も尖っており、部位ダメージや出血、服破れ、ステージ破壊などやりたい放題。当時としてはかなり過激なタイトルでしたが、ファミ通での評価は40点満点中24点。GameProは、「このゲームは格闘超人よりはるかに優れているが、デッド オア アライブ3やモータルコンバット デッドリー アライアンスには少し及ばない。とはいえ、格闘ファンならチェックすべきゲームだ」と表されています。つまり、若干微妙な結果に。

そんなStudio Giganteですが、闇雲に『キル・ビル』のゲームリリースを目指していたというわけではなく、実は本当に作りたかったのは『Tao Feng 2』だったと言われています。そして、それを望んでいたのはマイクロソフトでした。

とはいえ、「開発規模を拡大したい」「もっと予算が欲しい」という、差し迫った事情もあり、スタジオは別の大型案件に挑みます。それが、2作目のタイトルとなった『WWE WrestleMania 21』です。2005年に発売された本作は、同スタジオにとっても大きな転機となります。

本来は「この作品をシリーズ化して会社の経営を安定させる」という予定だったのです。しかし、なぜか本作は「未完成版が誤って出荷されてしまった」と言われています。その結果、ゲームはバグだらけで評価も低迷。そして、本作を発売したTHQとの関係も悪化するという最悪の状況に追い込まれてしまいます。これは、小さな開発スタジオにとっては、まさに致命的な出来事でした。

一縷の望みをかけて生まれたゲーム版『キル・ビル』

資金難に陥ってしまったStudio Giganteですが、新たな契約獲得のために複数のプロトタイプを制作。その中のひとつが、今回取り上げたゲーム版の『キル・ビル』だったのです。本作は、PS2とXbox、PC向けの作品として構想されていたと言われており、実際に動作する映像も残されています。

こちらで確認できるのは、映画の『キル・ビル Vol.1』にも登場した青葉屋を舞台にした剣戟と、雪の庭園のステージなど、映画の名シーンが再現されそうなイメージのものでした。また、キャラクターも主人公が身に付けていた黄色いトラックスーツに日本刀を使ったアクション、そして同社が得意とする血しぶき演出など、相性もかなり良かったのです。

しかし、映画のように『キル・ビル無双』とまではいえず、登場する敵キャラのCrazy 88は数人単位でしか登場しません。これらは主に、AIの未完成や処理負荷問題、そしてプロトタイプ段階であったことが理由だと思われます。

また、雪庭園という絶好の舞台が用意されているにもかかわらず、オーレン・イシイは登場しません。もちろん、青葉屋にゴーゴー夕張も登場しません。実はこのプロトタイプが作られた時期は、『The Matrix』『Scarface』『24』など、映画やドラマのゲーム化が盛んに行われていた時代でした。しかし同時に、開発費高騰やAAA化の流れによって、中堅規模の映画ライセンスゲームは急速に難しくなっていきます。

結果的にゲーム版の『キル・ビル』は、「“映画ライセンスゲーム時代の終焉」を象徴するような作品となってしまったのです。

Studio Giganteは消滅。ゲーム版『キル・ビル』も露と消える

ゲーム版『キル・ビル』はパブリッシャーが決まらず、『WrestleMania 21』の失敗なども重なりStudio Giganteは2005年に閉鎖。ゲーム自体も会社と共に消え去ってしまいました。その後、スタジオのメンバーだったJohn Tobias氏は、ゲーム業界から距離を置きつつ活動を続け、数年後に再び『モータルコンバット』関連イベントに登場するようになりました。

Joshua Tsui氏は、インディー寄りの活動に移り、アニメ風シューティングゲーム『Fallen Angel』の開発に携わります。もしかしたら、ゲームとしては登場するのが早すぎただけで、もしこれが現在ならば『Ghost of Tsushima』などのスタイルで受け入れられていた可能性もあります。

当時発売されなかったのは残念ですが、もしもの世界の出来事も見てみたいですね!

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