PlayStation 2エミュレーター「PCSX2」の実験フォークとして開発されている『PCSX2 Reliquary』に、新しい低遅延オーディオ機能が導入されました。低遅延オーディオを搭載した「v1.8.2-reliquary」は、2026年8月14日15時11分(UTC)、日本時間では8月15日午前0時11分に公開されています。
●PCSX2 Reliquary v1.8.2の配布ページ
https://github.com/DiscoStarslayer/pcsx2-reliquary/releases/tag/v1.8.2-reliquary?utm_source=chatgpt.com
開発者が低遅延向けに調整したLinux環境では、エミュレーターから音声出力までの実測値が約11ミリ秒になったとのこと。音のタイミングが重要になるリズムゲームなどで、大きな効果が期待できそうです。
公式版PCSX2ではなく実験フォークの新機能
最初に注意しておきたいのが、今回低遅延オーディオを導入したのは、公式版PCSX2ではないという点です。
『PCSX2 Reliquary』は、DiscoStarslayer氏が開発しているPCSX2の実験フォークです。通常のPlayStation 2用ゲームだけでなく、PS2をベースにしたアーケード基板やセキュリティ機能などを、より正確に再現することを目指しています。
Konami Python 1/Python 2基板、メモリーカード認証、HDDやCFカード、FireWireなどに関する独自機能に加え、ソフトウェアによる高精度な浮動小数点演算や「paraLLEl-GS」も実験的に取り込まれています。
通常のPlayStation 2エミュレーション部分については、公式PCSX2の更新を定期的に取り込んでいますが、開発とサポートは別々です。公式PCSX2の開発者へ『PCSX2 Reliquary』固有の不具合を報告しないよう、リポジトリー上でも注意が呼びかけられています。
●PCSX2 ReliquaryのGitHubリポジトリー
https://github.com/DiscoStarslayer/pcsx2-reliquary?utm_source=chatgpt.com
従来のTimeStretch処理が音声遅延を増やしていた
PCSX2では、ゲームの実行速度が変化したときでも音程を保ち、音声を滑らかに再生するために、SoundTouchライブラリーを利用したTimeStretch処理が使われています。
TimeStretchには、処理落ちが発生した場合でも音が途切れたり、音程が大きく変わったりしにくいという利点があります。
一方で、音声を加工するためには一定量のデータを先に蓄えておく必要があり、そのバッファーが遅延の原因になります。
開発者によると、従来の設定ではTimeStretch処理だけで平均約40ミリ秒の遅延が発生。その他の音声設定を可能な限り小さくした場合でも、実際の最小遅延は約80ミリ秒になっていたとのことです。
新しい「Low Latency(Resampling)」モードを搭載
今回追加されたのが、レート制御とリサンプリングを使用する「Low Latency(Resampling)」モードです。
ゲームが通常速度で動いているときは、音声速度の補正範囲を目標速度のプラスマイナス1パーセント以内に制限します。大幅なTimeStretch処理を避けることで、より小さな音声バッファーを使用できるようになりました。
一方、早送りやスローモーションを使用している間は、従来のTimeStretchへ自動的に切り替わります。通常速度へ戻ると、再び低遅延モードが使用される仕組みです。
低遅延モードのままゲーム側で大きな処理落ちが発生すると、音が乱れる可能性があります。あらゆる状況で遅延を最小化するのではなく、安定性とのバランスを考えた実験的な機能といえそうです。
Linuxの調整済み環境では約11ミリ秒を記録
開発者は、低遅延再生向けに調整したLinuxとPulseAudio環境でテストを実施しています。すべての遅延設定を可能な限り小さくしたところ、実測したエンドツーエンドの音声遅延は約11ミリ秒になったと報告されています。
リズムゲーム『Frequency』を数時間プレイしたテストでは、音声バッファーの部分的なアンダーフローが48回発生したものの、開発者自身は音切れとして認識できなかったとのことです。ただし、音の乱れに敏感な場合や、低遅延処理に適していないオーディオ機器を使っている場合は、バッファーを増やす必要があります。
また、約11ミリ秒という数値は、開発者が調整した特定のLinux環境で測定されたものです。測定に使ったすべてのハードウェアや詳細な測定方法は公開されていないため、すべての環境で同じ数値が出るわけではありません。
Cubebが報告する最小値より小さな遅延も要求可能に
『PCSX2 Reliquary』では、オーディオライブラリー「Cubeb」のバックエンドが報告する最小遅延値についても、扱いが変更されています。
開発者のLinux環境では、PulseAudioバックエンドが最小値として25ミリ秒を報告していました。しかし、この値をそのまま下限として扱わず、1ミリ秒を要求したところ、実際には約120フレーム、約4ミリ秒で動作したとのことです。
つまり、バックエンドが報告する最小値は、必ずしもハードウェア上の絶対的な限界ではなかったことになります。新しいバージョンでは、設定された音声機器が対応できる場合、報告値よりも小さなバッファーを要求できるようになっています。
もちろん、オーディオ機器やドライバーが対応できなければ、音切れやノイズが発生する可能性があります。数値を小さくすれば必ず快適になるというものではありません。
Windowsには2種類の低遅延バックエンドを追加
Windows版には、新たにWASAPI排他モードとIAudioClient3が追加されました。
| バックエンド | 開発者が示した遅延 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| WASAPI排他モード | 対応環境では3ミリ秒未満 | オーディオ機器をPCSX2が占有します |
| IAudioClient3+WaveRT | 3ミリ秒以下 | 共有モードのまま低遅延化できます |
| IAudioClient3・WaveRT非対応 | 約10ミリ秒 | 通常のWASAPI共有モードに近い動作です |
WASAPI排他モードは、比較的幅広い環境で低遅延を狙える方式です。ただし、PCSX2がオーディオ機器を占有するため、ほかのアプリから同じ機器へ音を出せなくなります。Windows側のオーディオミキサーにも制限が発生します。
IAudioClient3は、Microsoftが提供している比較的新しい音声インターフェースです。オーディオ機器とドライバーがWaveRTに対応していれば、排他モードを使用せずに3ミリ秒以下の出力遅延を狙えます。
WaveRTに対応していない環境では約10ミリ秒で動作するため、ハードウェアによって効果が変わります。
なお、Windows向けに示された3ミリ秒以下という数値は、オーディオバックエンド部分の遅延です。Linux環境で測定された約11ミリ秒のエンドツーエンド遅延と、直接比較できる数値ではありません。
入力遅延が11ミリ秒になるわけではない
今回短縮されたのは、エミュレーターが生成した音声をスピーカーやヘッドホンへ届けるまでの遅延です。コントローラーの入力遅延、ゲーム内部の処理、映像の描画、ディスプレイの表示遅延などが、すべて含まれているわけではありません。
そのため、「ボタンを押してから画面が反応するまでの遅延が11ミリ秒になった」という意味ではありません。ただし、ボタン操作に合わせて効果音が鳴るアクションゲームや、音楽に合わせて操作するリズムゲームでは、音声遅延が小さくなることで操作と音のずれが感じにくくなります。
Bluetoothヘッドホンやスピーカーを使用した場合は、無線伝送やコーデックによる遅延が別途追加されます。低遅延機能を試す場合は、有線ヘッドホンやUSB接続のオーディオ機器を使用したほうが効果を確認しやすそうです。
Windows、Linux、macOS向けビルドを配布中
「v1.8.2-reliquary」では、以下の環境向けビルドが公開されています。
- Windows x64
- Linux AppImage
- Linux Flatpak
- macOS
低遅延モードは、オーディオ設定にある「Synchronization」から「Low Latency(Resampling)」を選択して利用します。バッファーをいきなり最小にすると音切れが発生する可能性があるため、最初は余裕のある値に設定し、実際にゲームをプレイしながら少しずつ下げていくのがよさそうです。
『PCSX2 Reliquary』はあくまでも実験フォークですが、音のタイミングが重要なPlayStation 2用ゲームを、より実機に近い感覚で遊ぶための興味深い取り組みです。今後、この低遅延オーディオの仕組みが公式PCSX2へ取り込まれるかについては、現時点では発表されていません。















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