【PS2レビュー】あの名場面がない!? だが、それがいい。ドラマとアクションが見事に融合した良作『あしたのジョー ~まっ白に燃え尽きろ!』

【PS2レビュー】あの名場面がない!? だが、それがいい。ドラマとアクションが見事に融合した良作『あしたのジョー ~まっ白に燃え尽きろ!』

コナミより、2003年12月4日に発売されたPlayStation 2用のアクションゲーム『あしたのジョー ~まっ白に燃え尽きろ!』。本作は、言わずと知れたスポ根漫画の金字塔である原作・高森朝雄、作画・ちばてつやの『あしたのジョー』を題材にした作品だ。

比較的スポーツとゲームの愛称はいいこともあってか、これまでもかなりの数が世に登場してきている。中でも今回のような人気IPを活用したタイトルでは、アクション性に加えて原作のドラマも盛り込まれている場合が多い。

本作も基本的にはそうした流れの作品なのだが、実際にプレイしてみたところ想像以上にドラマ部分にも力が入れられていることがわかった。そこで今回は、こちらのレビューをお届けしたいと思う。

用意されているゲームモードは3種類

このゲームでは、全部で3種類のゲームモードを選ぶことができる。「まっ白に燃え尽きろ!」は、いわば本作のメインともいえるモードだ。ストーリーパートと試合パートに別れており、物語を楽しみながら合間に試合も行われるといった感じだ。

「熱き拳で語れ!」は、自分が好きなキャラクターとルールを選んで、友達同士やコンピューター相手に戦うことができるモードである。純粋にボクシングゲームだけを楽しみたいというならば、お手軽にこのモードを選んで遊ぶのがいいだろう。

「栄光をつかめ!」は、自分が好きなキャラクターを選んで世界チャンピオンを目指すモードである。ゴロマキ権藤など、けんかスタイルでしか戦えないキャラクターでは無理だが、頑張れば丹下段平で世界チャンピオンになることも可能だ。世界チャンピオンになると、ギャラリーで見られるキャラクターのグラフィックをゲットすることができる。

▲ 「栄光をつかめ!」 のモードでカーロスを選んだところ。グラフィックも選択することができる。チンピラとの喧嘩から始まり、プロテストというように段階を経て世界チャンピオンを目指していくことになる。

ボタンの組み合わせで様々なパンチやガードが繰り出せる!

さすがボクシングゲームだけのことはあり、アクション部分に関してはもちろん手抜かりはない。基本は格闘ゲームのような横から見た画面で打ち合うことになるのだが、3Dでモデリングされているということもあり、ある程度奥行きのあるプレイを楽しむことができる。

ボタンの組み合わせなどで、ある程度のパンチやガードなどができるほか、攻撃や防御をすることで「炎ゲージ」が溜まっていく。この炎ゲージが溜まって点滅すると、スペシャルブローが繰り出せるようになる。

▲青くメラメラしたものが炎ゲージ。小→中→大と3段階あるほか、青→黄→赤というようにスペシャルブローが最大3回までつかえるよに溜めていくこともできる。

このスペシャルブローとは、「クロスカウンター」などそのキャラクターが持っている必殺技のようなものだ。逆に、対戦相手に出されて一気にダウンに持ち込まれてしまうこともあるため気を付ける必要がある。このスペシャルブローは攻撃だけではなく、状況によっては相手が放ったものを切り返すこともできる。いわゆるQTEのようなものだが、不意に画面が切り替わったらタイミングよく表示されたボタンを押してうまく成功させよう。

▲矢吹丈といえばやはりこの技、必殺の「クロスカウンター」が炸裂!
▲スペシャルブローの切り返し。ランダムで表示されるボタンをうまく押そう。

もうひとつ、『あしたのジョー』らしさを演出している要素のひとつが、試合スタイルだ。一般的な「スタンダード」に加えて、特定のキャラクターやシーンでのみ使用可能な「ケンカ」、通常攻撃ができない代わりに炎ゲージが溜まりやすくなる「ノーガード」、そして隙は大きくなるもののダメージも大きくなる「KO狙い」の4種類用意されている。

こうした試合スタイルは、プレイ中好きなタイミングで切り替えることが可能だ。ただし、切り替えは必ず順番になるので、そこだけ気を付ける必要がある。

▲ノーガードスタイルで炎ゲージをふたつ目の黄色まで上げたところ。

このアクションについては、突き詰めれば突き詰めるほど奥が深い。しかし、中にはアクションがあまり得意ではなくストーリーだけ楽しみたいという人もいるだろう。そうした人のために、本作では5段階の難易度が用意されている。例えばストーリーモードの「まっ白に燃え尽きろ!」で、難易度を一番低くしても、ある程度苦労する場面が出てくるぐらいに調整されている。

ちなみに筆者の場合は一番低い難易度で 「まっ白に燃え尽きろ!」 をプレイしたのだが、それでもテンプルが打てなくなったジョーがドサ回り中に対戦した稲葉粂太郎と、ラストのホセ・メンドーサーに何度も倒されてしまった。逆に、歯ごたえがないという人は、最高難易度で世界チャンピオンを目指すというのもいいかもしれない。

その人にあったレベルの楽しみ方ができるのも、本作の素晴らしいところだ。

▲ちなみに自分がダウンしたときや、負けてコンティニューする場合は、コントローラーをガチャガチャやらなくてはいけない。

オリジナルの声優も起用したフルボイスのドラマがアツすぎるッ!!

いや、たしかにアクションは良くできている部類に入るのだが、それよりもなによりも、もっともこのゲームで感動させられたのが、先ほどもちらほら触れているメインモードの「まっ白に燃え尽きろ!」である。とにかく、このこだわりっぷりはすごい。

丹下段平との出会いから、ラストのホセ・メンドーサ戦を終えて真っ白に燃え尽きるまでのストーリーを、ほぼ原作漫画を忠実にトレースするような形で追体験することができるのである。絵柄もアニメ版ではなく漫画がベースなのだが、すばらしいのがセリフがフルボイスになっており、矢吹丈役のあおい輝彦さんをはじめ、ある程度アニメ版のオリジナル声優も起用しているところである。

▲こちらは試合中に入る、カットシーン。動く漫画とでもいうような演出になっている。

筆者は『あしたのジョー2』のマニアだが、本作の声優もある程度アニメが基準となっているようだ。たとえば、カーロス・リベラはアニメの1と2の両方に登場するのだが、こちらで声を演じているのは 『あしたのジョー2』 のほうの中尾隆聖さんである。また、 金竜飛の声も若本規夫さんが演じており、このあたりも個人的につぼにハマったところかもしれない。

▲カーロスとジョーの会話シーン。

もうひとつ、このドラマパートを面白くしているところは、微妙な端折りっぷりだ。基本は原作漫画をトレースしていることもあり、微妙に端折っているように感じるところもあるのだ。たとえば、楽しみにしていたシーンに、最初にマンモス西と出会う少年院の場面がある。原作やアニメではねじりんぼうやパラシュート部隊で手厚くもてなされたのだが、それらはカットされていた。

また、アニメ版『あしたのジョー2』で話題になった光るゲロなども、残念ながら漫画基準の本作では光っていない。しかし、むしろこうした違いがどれだけあるか気になり、ついついストーリーを進めていきたくなってしまうのである。

▲あしたのために・その1から段平の通信教育がスタート!
▲あしたのための・その2を教わることなく、その3をマスター!
▲ねじりんぼうはなかったものの、それほど重要なのかわからないが、うどんのシーンはしっかりと入っていた。
▲ここに白湯があります。
▲ジョーのゲロは光っていなかった。

豪華声優陣の一覧(敬称略)

矢吹丈:あおい輝彦
丹下段平:渡部猛 ※
力石徹:石井康嗣 ※
白木葉子:木村亜希子 ※
西寛一:西松和彦 ※
ゴロマキ権藤:渡部猛 ※
青山まもる:堀田勝 ※
稲垣:森訓久
村瀬:吉川寛司
ウルフ金串:永野善一 ※
タイガー尾崎:高杉航大 ※
稲葉粂太郎:竹本英史
カーロス・リベラ:中尾隆聖
ハリー・ロバート:桑原たけし ※
金竜飛:若本規夫
ハリマオ:下崎紘史 ※
ピナン・サラワク:内藤玲
ウスマン・ソムキャット:近田英紀
ホセ・メンドーサ:田中総一郎 ※

カバレロ:堀田勝
ホセ婦人:鈴木真仁
林紀子:鈴木真仁 ※
サチ:堀江ゆき ※
太郎:堀田勝 ※
キノコ:鈴木真仁 ※
とん平(とん吉の間違い?):下崎紘史
白木幹之介:蓮岳大
アナウンサー:竹本英史
解説者:岩崎征実
リングアナ:木内秀信
レフェリー:前田剛
警官:蓮岳大
刑事:高杉航大
少年院生:近田英紀、森訓久、堀田勝
うどん屋のおやじ:宮澤正
洋子の側近:森訓久
白木家の給仕:木内秀信
河野:植木誠
丹下ジム生:前田剛
白木ジム生:森訓久、下崎紘史
ドクター・キニスキー:高杉航大
大高会長:宮澤正
横倉会長:竹本英史
大洋ジム会長:木内秀信
原島:植木誠
滝川修平:吉川寛司
職員:吉川寛司
スチュワーデス:堀江ゆき
鬼姫会:蓮岳大、内藤玲、前田剛、岩崎征実、永野善一
観客:下崎紘史、内藤玲、吉川寛司、蓮岳大
記者:植木誠、木内秀信
草拳闘士:前田剛、永野善一
チンピラ:内藤玲、岩崎征実、植木誠、近田英紀、田中総一郎
ナレーション:渡部猛

※は確認した範囲でアニメ版とは異なる声優を起用しているキャラクター

ゲーム中、尾藤イサオ歌うオープニングテーマ「あしたのジョー」はもちろんのこと、「丹下拳闘クラブ」では小池朝雄が歌うエンディングテーマの「ジョーの子守唄」の子守歌も聴くことができる。唯一「ん?」と思ったのは、「まっ白に燃え尽きろ!」の各章の頭に流れる曲だ。なんとなーく、『あしたのジョー2』の「傷だらけの栄光」に出てくる「わかってないTonight!」の部分のアイキャッチを音痴にしたような感じなのだが……ま、そこはあえてそちらの寄せているのだろう(笑)。

▲各章のタイトルに流れるアイキャッチは、どこかで聴いたことあるようなないような曲だ。

歴史のifが楽しめる?

コーエーテクモゲームスの歴史シミュレーションではないが、この「まっ白に燃え尽きろ!」では、歴史のifも楽しめるような作りになっている。普通にプレイすると、基本的に漫画のストーリーを綺麗になぞって終わる感じなのだが、実はそれだけではないシナリオが隠されている。

「まっ白に燃え尽きろ!」でチャプターを選ぶと、これまでたどってきたストーリーが一覧で表示される。そこでは、体験していないストーリーもグレイの文字で表示されているのである。それらの中には、「衝撃!生きていた力石」や本来13章で終わるはずのストーリーの続きである14章の存在がわかるほか、「そして2人はまっ白な灰に」という意味深なものまであるのだ。

実は、ホセ・メンドーサ戦で何度もコンティニューしていたことからわかったことがあるのだが、試合中の展開によっても間に流れるドラマが微妙に異なることがある。ある程度の条件をクリアすることで、こうしたシナリオがアンロックされていくというわけだ。

▲最初の数プレイではなかった、カーロスがリングサイドに来てホセが気を取られるというシーンが出ることも。

『あしたのジョー』ファンなら迷わず買うべし!

実は本作を中古で買ったのは結構前だったのだが、眠らせておいたのがもったいなく感じたほどかなりの良作であった。PlayStaion 2で何か面白いゲームがないか探している人で、さらに『あしたのジョー』が好きならば、ファンアイテムとしても持っておきたい1本である。

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高島おしゃむ
ライター/編集者。コンピューターホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。 現在はゲームやホビー、IT、XR系のメディアを中心に、イベント取材やインタビュー、レビュー、コラム記事などを執筆しています。