2005年の歌声合成ソフト『VocalWriter』がWindowsで復活!PowerPCコードを直接動かすStudio 1.0公開

2005年の歌声合成ソフト『VocalWriter』がWindowsで復活!PowerPCコードを直接動かすStudio 1.0公開

2005年にKAE Labsから発売されたMac OS X向け歌声合成ソフト『VocalWriter 2.0.1』の合成エンジンを、Windows上で動作させる「VocalWriter Studio 1.0」が公開されました。一般的なMacエミュレーターや仮想マシンを利用するのではなく、オリジナルのPowerPC向け合成コードを独自のインタープリターから直接実行するという、かなりユニークな保存・互換プロジェクトです。

GitHubではWindows 64bit向けの「VocalWriterStudio-win64.zip」が配布されており、ZIPファイルを展開して「VocalWriterStudio.exe」を実行するだけで利用できると説明されています。インストール作業は不要で、オリジナル版の歌声合成処理を現代のWindows環境から利用できるようにすることが目的です。

●VocalWriter Studio GitHubリポジトリ
https://github.com/masonasons/vocalwriter

●VocalWriter Archive
https://toastghostzone.neocities.org/vocalwriterarchive/

PowerPC用の合成コードそのものを動かす

『VocalWriter』は、もともとKAE LabsがMac向けに開発した歌声合成ソフトです。VocalWriter Archiveによると最初のバージョンは1998年に登場し、2005年にはMac OS X向けの『VocalWriter 2.0』へと移行しました。『VocalWriter 2.0.1』はPowerPC専用バイナリとして提供されていたため、PowerPCアプリを動かすためのRosettaがMac OS X 10.7で廃止されて以降、現在のMacでそのまま利用することは難しくなっています。

今回公開されたプロジェクトで面白いのは、歌声合成アルゴリズムを現代向けに作り直したものではないというところです。開発者は当初、オリジナルのアルゴリズムを再実装する方法も試したものの、十分に同じ結果を再現できなかったため、最終的にはVocalWriter自身が持つPowerPCコードを実行する方式を採用しました。

READMEによれば、対象となった合成エンジンは48個の関数と約1万1000命令、65種類のPowerPC命令で構成されています。これらを実行する32bitビッグエンディアンPowerPC用のインタープリターを独自に実装し、オリジナルのVocalWriterが計算するサンプルそのものを生成する仕組みになっています。つまり「似た音を再現する」のではなく、旧ソフトに含まれていた合成処理自体を現代環境から呼び出しているわけです。

マルチトラック編集やMIDI読み込みにも対応

「VocalWriter Studio」は単に古い合成エンジンを動かすだけの実験ツールではなく、歌を編集するためのGUIも用意されています。複数のトラックを作成でき、それぞれに音声、音量、パンを設定できるほか、ミュートやソロにも対応。音符ごとのピッチベンドや休符、拍子、メトロノームなども利用できます。

MIDIファイルのインポートにも対応しており、ノートだけではなく歌詞やテンポ、拍子、ピッチベンドなどを取り込めるとのこと。完成した楽曲はひとつのWAVファイルとして書き出せるほか、各トラックを個別のWAVとして出力するステム書き出しも利用できます。プロジェクト自体は「.vws」形式で保存され、その中身にはJSONが使われています。

合成速度について、1.0のReleaseページでは実時間の約14倍で処理できると説明されています。ただしREADMEに掲載されている測定表では、コンパイル済みコアがWindows x86-64環境で実時間の約10倍、Apple Silicon Macで約14倍と記載されており、数字には違いがあります。そのため、いずれも開発者環境での測定値として捉えておくのがよさそうです。

スクリーンリーダーを意識したアクセシビリティも特徴

もうひとつVocalWriter Studioの大きな特徴になっているのが、視覚に頼らず操作できることを意識したインターフェイスです。基本的な操作がメニューから実行でき、それぞれにキーボードショートカットが割り当てられているため、マウスを使わずキーボードだけでも編集できるよう設計されています。

さらに各コントロールにはアクセシブル名が設定されており、Windows側にラベルの推測を任せるのではなく、スクリーンリーダーが内容を正しく読み上げられることも重視されています。色や画面上の位置だけで情報を伝えない設計になっているなど、単なるレトロソフトの復元とは異なる部分にも力が入れられています。

配布されている旧ソフト資産の権利関係には注意

一方で、今回のReleaseを利用するうえでは権利関係について注意しておく必要があります。GitHubのリポジトリ本体には『VocalWriter 2.0.1』そのものは収録されておらず、READMEとNOTICEでは、PowerPCバイナリやEnglishLex辞書、GMSpeech音声バンク、デモ曲、マニュアルなどはKAE Labsの著作物であり、このプロジェクトに適用されているMITライセンスの対象ではないと明記されています。また、このプロジェクトはKAE Labsとは無関係で、同社から承認を受けたものではないとも説明されています。

その一方、VocalWriter Studio 1.0のReleaseページでは、配布ファイルの中にVocalWriter 2.0.1本体のPowerPCバイナリ、EnglishLex辞書、GMSpeech音声バンクを収録していると説明されています。これらについてKAE Labsから再配布許可を得ているかどうかは、公開されている情報からは確認できません。そのため当サイトでは、この配布物について合法性や権利者からの許諾が得られていると断定することは避けます。

古いソフトを「当時のコードごと」残す試み

VocalWriter Studioは、単なる昔のアプリのWindows移植というよりも、PowerPC時代のソフトウェア資産をどのように現代環境で残すかという点で興味深いプロジェクトです。Mac OSそのものを再現するのではなく、必要なPowerPCコードだけを解析し、そのコードが期待する環境を用意して実行するというアプローチは、今後ほかの古いソフトウェアを保存していくうえでも参考になりそうです。

なお、現時点で完成済みアプリとして確認できるのはWindows 64bit版です。また、EnglishLexなど英語用の資産を利用する仕組みで、日本語の歌唱に対応しているかどうかについては確認できません。2005年の歌声合成エンジンを約20年後のPCで再び動かすという技術的な試みとして、今後の開発にも注目したいところです。

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