1997年。一部ゲーマーの間で、圧倒的な人気を集めたPCゲームが登場した。その名は『ディアブロ』。開発は、当時リアルタイムストラテージゲーム『ウォークラフト』のヒットで知られていたブリザード・エンターテイメントである。
前年の1996年に、世界初のMMORPG『ウルティマ・オンライン』がリリースされたとはいえ、日本でインターネットが普及したのは1994年。オンラインゲームの歴史としては、黎明期に当たる時代の作品だ。ちなみに『ウルティマ・オンライン』は多人数参加型のゲームだったが、本作は最大4人でプレイするMORPGである。しかし、画期的だったのは「Battle.net」と呼ばれるサーバーを無料で用意していたところだ。
少し話題を外れて当時のネットゲーム状況を説明すると、先ほどもいったようにまだまだインターネット黎明期ということもあり、PCの対戦ゲームの多くはローカルLANでプレイするものがほとんどだった。また、『ウルティマ・オンライン』のように、月額の使用料(概ね1500円程度)のコストが必要であった。
実際にそれらのゲームで対戦を楽しむ場合は、LANパーティのようなものを開いてPCを持ち寄っていたか、あるいはインターネット経由で擬似的にLAN環境を作ることができるKALIやDWANGO(ニコニコでおなじみの大元の会社。社名の由来は、Dial-up Wide-Area Network Game Operation)といったサービスを利用するしかなかった。
それ故に、ネット接続料はかかるとはいえ無料でサーバーが利用できるというのは大きな魅力だった。
ランダム生成ダンジョンで無限にプレイが可能
もちろんネット環境が整っているというのは大きなアドバンテージだが、それだけで多くの人を惹きつけることはできない。では一体何が画期的だったのだろうか?
このゲームのベースとなっているのは、「ローグ」だ。日本では「トルネコの大冒険」といったほうがわかりやすいかもしれないが、登場するダンジョンはひとつのみだが、毎回ランダム生成されるため違ったプレイが楽しめるといったスタイルの作品である。そして、この部分が、決定的に次作以降の「ディアブロ2」や「3」との違いとなっている。
ただのローグライクなゲームと異なったのは、リアルタイムなアクションというところだ。ゲームデザインとして、ダンジョンの中は視界が狭く、ちょっとした先にどんなモンスターたちが潜んでいるのかもわかりにくい。また、多くの扉があり、ドア1枚開けた先に無数のモンスターたちが待ち構えており、阿鼻叫喚の世界だったなんてことも多々ある。そのドキドキ感とスリルが貯まらない感じなのだ。
ダンジョンの途中で死んでしまった場合、装備を含めたすべてのアイテムはその場に落としてしまう。運良く仲間に蘇生してもらった場合は助かるが、多くのモンスターたちにたこ殴りにされ全滅してしまった場合は、最悪裸のまま泣きながらグーで殴ってモンスターを倒していき回収しなければいけないのだ。
なぜそこまでしてアイテムを回収したいかというと、ダンジョン内で入手したレアなアイテムを失いたくないからである。このあたりは現在のハクスラ系ゲームと変わりはないが、アイテムにはレアリティとは別にランダムでパラメーターが付属している。そのため、よりよいアイテムを手に入れるために日夜ダンジョンに潜っていくというのがプレイヤーのモチベーションとなっていたのだ。
ゲーム系雑誌編集部のディスプレイにはどこを見回しても『ディアブロ』だらけ!?
当時、筆者はアスキーという会社の「ログイン」というPC系ゲーム雑誌の編集者をしていたのだが、もちろん編集部のディスプレイにはどこを見渡してもこの「ディアブロ」しか映っていない状況だった。それどころか、兄弟誌の「ファミ通」編集部などをちらりと見ても同じように「ディアブロ」ばかりが映っていた。これらは仕事でやっているというよりも、あくまでも「遊びたくて仕方が無い」という状況から生まれたものだ。
数年前にテレビドラマの「半沢直樹」が流行ったときに、カプセルホテルのディスプレイがそのドラマだらけだったというのがSNSで話題になったが、まさにその光景を思い起こさせる感じだ。
『ディアブロ』を無料で配布する計画も?
残念ながら実現はしなかったが、実は当時アスキーがこの『ディアブロ』を日本で無料で配布するという計画があった。その目的は、日本のオンラインゲームを盛り上げるためだ。PCゲームの中でも、とりわけオンラインゲームは期待が高かったが、やはり一般的に普及させるには、何かしらの起爆剤が必要となる。それにまさにピッタリだったのが、この 『ディアブロ』 だったというわけだ。
現状、日本ではあまりPCゲームは普及しておらず、プロチームなども複数誕生してきてはいるが、やはり圧倒的に土壌の弱さが他の国との差となって表れてしまっている。もし、当時 『ディアブロ』 が無料で入手できていたら、あるいは少しは状況が変わっていたのかもしれない。
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