1999年のゲームニュース。バンダイが『ワンダースワン』と『ワンダーゲート』で見た夢

1999年のゲームニュース。バンダイが『ワンダースワン』と『ワンダーゲート』で見た夢
はじめに

こちらは1999年に専門誌に書いた記事の復刻版になります。内容などは当時のままになっており、一部補足を付け加えています。

1999年9月17日~19日の三日間、千葉県の幕張で「東京ゲームショウ’99秋」が開催され、のべ16万3866人もの人が押し寄せた。新しいハードや累計200万本以上を売り上げる大ヒットソフトの登場など、ゲーム業界は年々膨れ上がっていき、現在では自動車業界をも上回る巨大ビジネス産業にまで成長を遂げている。

携帯電話も5000万台時代を迎える。いわば、ゲーム業界と同じ勢いで進化を遂げてきた、数少ないビジネスともいえるだろう。そこで、ゲームメーカー各社が目を付けてきたのが、携帯市場と、ゲーム市場との融合である。今後は、携帯電話と携帯型ゲーム機を利用したソフトやサービスに注目が集まっていくことだろう。通信キャリアにとっても、ゲーム市場のコアユーザーである若年層を取り込む最大のビジネスチャンスである。

ゲーム業界とインターネット。新しいモバイル環境への期待

テレビでニュースを見ていると、もの凄い数の報道陣と共に、画面に黒いマシンが映っている。全世界で5000万台以上をも売り上げたソニーの家庭用ゲーム機、『プレイステーション』の次世代マシン『プレイステーション2』の発表会の模様である。

業界専門誌のみならず、テレビや新聞社などのマスコミがゲーム機の発表に押し寄せてくるなど、数年前までは考えられない状況だ。ゲーム機の新作の発表とは、車の新製品とは意味合いが異なり、それを基盤とした新しいビジネスチャンスを生み出す動力源として見なされているのである。

現在の家庭用ゲーム機は大きく分けて二つの流れがある。ひとつは、先にあげたソニー、任天堂、セガ・エンタープライゼスがしのぎを削っている、据え置きタイプのもの。そしてもうひとつが、携帯型のゲームマシンだ。

1998年11月、セガ・エンタープライゼスより発売された『ドリームキャスト』にはモデムが内蔵されており、インターネットも楽しめるというのがウリである。その流れをくんでか、ソニーの次世代機『プレイステーション2』や、任天堂が開発中の次世代機にも、ネット機能を搭載する予定だ。今後はゲーム業界と、インターネットの関係がますます密接になっていくであろう。

そんな折りに発表されたのが、バンダイの携帯ゲーム機『ワンダースワン』に、インターネット接続機能を持たせた通信アダプタ『ワンダーゲート』である。また、時を同じとして、携帯ゲーム機ではダントツのシェアを誇る任天堂の『ゲームボーイ』の次世代機も通信機能を持たせると発表があった。携帯電話と携帯ゲーム機との融合により、新しいモバイル環境への広がりが見込まれるであろう。

開発当初から通信への対応を図ったバンダイの『ワンダースワン』

バンダイの『ワンダースワン』は、1999年3月4日に発売された携帯ゲーム機だ。画面はモノクロ8階調。16ビットCPUに、個人データを記録可能なEEPROMを内蔵している。単3アルカリ電池1本で、約30時間もの使用が可能だ。1999年8月には110万台を出荷しており、年末には220万台を目差しているという。この『ワンダースワン』用通信アダプタとして、1999年6月23日に発表されたのが『ワンダーゲート』である。

この通信アダプタは、本体横の通信ポートに接続し、一体化させるデザインになっている。このアダプタから携帯電話やPHSなどの端末に接続することで、通信が可能となる。この通信アダプタと携帯電話、そしてワンダーゲート対応ソフトを利用することにより、Webや電子メールも利用可能となる。ブラウザの機能は、HTML3.2に準拠したもので、テーブルタグ、GIF、JPEG画像の表示、JIS、S-JIS、EUCなどの漢字コードの自動認識、大小2段階のフォントが選べるようになっている。

また、URL入力支援ツールにより、ゲーム機のみでの入力を可能にしているほか、ブックマークも20件まで登録が可能だ。付属のメールソフトも、POP3/SMTPに対応した本格的なものだ。50件までのメールアドレスを登録することが可能で、SRAMに約100件ほど保存することができる。発売は年末で、各キャリアがそれぞれの特製に合わせて出荷する予定だ。

バンダイ・開発本部ニュープロパティ開発部研究開発課課長・高橋豊志氏はワンダースワンとワンダーゲートの目差すところについてこう語る。

「10代、20代の低年齢層の方々にも、メールや(WWWの)ブラウジングを楽しんでもらいたいというのがあります。また、これまではひとつのゲーム世界の中だけに閉じこもっていたユーザーを、ネットを通して世界観を拡げてもらいたいと思っています」

この『ワンダーゲート』の発売と前後して、現在5本の対応ソフトがこの年末発売される予定である。これらの中には、見知らぬ者同士と点数を競い合ったりするものや、新しいデータをダウンロードしゲームを拡張しているものが用意されている。ダウンロード専用ゲームも予定されており、ミニゲーム程度なら1分以内にソフトを取り込むが可能だ。

若年層のゲームユーザとデータ通信に注目

たしかに、ここ数年の携帯電話の利用者は激増している。だが、このままでは加入者の数は頭打ちだ。新規のユーザーを取り込んで行くには、目新たらしいコンテンツが必要不可欠であるといえよう。これに対して、ゲームユーザーのコアは、10代から20代前半にかけての若年層が中心だ。毎年新しいユーザーがゲーム業界を盛り上げているのは、これらの層をうまく取り込んでいるからだといえる。

ワンダースワンの場合、携帯電話のユーザー層でもある16歳以上のユーザーが、全体の55パーセントを占めているという点も見逃せない。『ワンダーゲート』の登場により、ユーザーが200万人を越えた場合、単純に100万人以上市場ができあがるというわけだ。これにより、携帯電話市場も盛り上がっていくことだろう。

また、データ通信は現在の回線交換からパケット通信へと移行しつつある。パケット通信は、一度にたくさんのデータを送信できるため、短時間の接続だけでもデータのやりとりが可能だ。バンダイはこの部分にも注目しており、将棋などのタイムラグを気にしなくてもすむようなゲームの提供も計画している。

早ければ年内にPDCタイプが登場! PHSタイプも計画中

バンダイでは、『ワンダーゲート』の発表後、この若年層に対してアンケート調査を行っている。それによると、携帯電話のユーザーに関しては、一般的に売れていると言われているドコモの数はそれほど多くなかったという。逆に、(ドコモを含めた)PHS全体を合わせた数は全体の28パーセントにも及ぶ。

『ワンダーゲート』は発売当初、携帯電話のみの対応となるが、このPHS市場の大きさも見逃せないため現在各社と交渉中を進めている。また、PHSはデータ通信という点から見ても携帯電話より優れているところが多い。通信のコストも考えれば、外せないラインであることは間違いない。PHSのユーザー離れが懸念されているが、若年層のゲームユーザーをうまく取り込むことにより、再び市場を活性化することも可能だろう。

これを執筆している時点での、『ワンダーゲート』の発売日は未定だ。技術的な問題はほとんどクリアしており、あとはキャリアとの話し合いしだいで、早ければ年末に登場することであろう。

また、バンダイの発表と前後して次世代携帯ゲーム機の開発を発表した任天堂は、現時点で形になっているものはなく、早くても来年の夏以降の市場投入になりそうだ。当面は、携帯ゲーム市場は『ワンダースワン』が引っ張っていく形となる。

キャリアの展開と、バンダイのコンテンツ作りによっては、モバイル市場を席巻することは難しいことではないだろう。ゲームだけではなく、ワンダーゲートを利用したウェブコンテンツでも、これまでのバンダイの特徴であった、キャラクター戦略とはひと味違ったものも用意されているという。いずれにしても、今後の展開から目が離せないニュータイプのモバイルメディアである。

関連情報

●『ゲームボーイカラー』
任天堂が発売した携帯ゲーム機。デザインやカラー絵の対応など、徐々にアップグレードを図っている。販売台数は日本国内だけで1098万台。通信対応の次世代ゲームボーイも計画中である(※『ゲームボーイアドバンス』のこと)。

●『ワンダースワン』
バンダイが発売した携帯ゲーム機。幅広い層のユーザーを誇る。1999年8月末の時点で出荷台数は110万台。年末には、通信機能を持った通信アダプタ『ワンダーゲート』を発売する予定(※その後、本体はシリーズを含めて、350万台を販売。『モバイルワンダーゲート』は2000年7月14日に1万200円で発売。全16タイトルが対応したが、2003年3月31日でサービスの一部を終了している)。

●『ネオジオポケットカラー』
SNKが開発した携帯ゲーム機。146色同時発色が可能。販売台数は40万台。無線ユニットを搭載することにより、10m離れた相手とも通信プレーが可能になる。

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高島おしゃむ
ライター/編集者。コンピューターホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。 現在はゲームやホビー、IT、XR系のメディアを中心に、イベント取材やインタビュー、レビュー、コラム記事などを執筆しています。