65種類以上の異なるプラットフォームに移植されたゲームとして、ギネスブックにも記載されている『テトリス』。最近でも『ぷよぷよテトリス』といった人気作が登場し話題を呼んでいますが、もはや知らない人はいないんじゃないかというぐらいの定番ゲームですよね。
ちなみに筆者が初めて『テトリス』に出会ったのは、専門学校の頃でした。当時学校の地下にあったコンピューター室に、「IQがわかるゲームがあるよ」といわれてBPSから発売されてたPC-9801版の『テトリス』に挑戦したのが初めてです。
ゲームオーバ後、IQの数値などが出なかったことに文句をいった記憶もありますが、まぁ当たり前ですよね。そんな目的のゲームというわけじゃないし(笑)。
生まれは共産主義国家のソ連
この『テトリス』は、ロシア生まれのコンピューター技師・アレクセイ・パジトノフ氏が、1984年当時にロシア科学アカデミー(RAS)のドラドニーツェン・コンピューティングセンターに務めていた頃に生まれています。
アイデアの元となったのは、『ペントミノ』と呼ばれる箱詰めパズルの知育玩具。それにテニスを掛け合わせて『テトリス』と名付けられました。
パジトノフ氏が最初に『テトリス』を開発したのは、ソ連製のコンピューター『エレクトロニカ60』という超マイナーマシンで、画面に表示できるのも英数字や記号といった、キーボードに表示されているものに限られていました。
音楽も何もない状態でしたが、すでにそのゲーム性はこの時点で確立されており、のちの世界的大ヒットへと繋がっています。
▲ニューヨーク近代美術館のパーマネントコレクションにも加えられている、オリジナルの『テトリス』。
『ゲームボーイ』+『テトリス』の影で消えていったメガドラ版
日本でも人気となった『テトリス』。一説にはセガのアーケード版がきっかけと言われることもありますが、筆者の肌感覚ではどちらかというと任天堂の初代『ゲームボーイ』との組み合わせが強烈に印象に残っています。ゲームボーイ独特の「シャキーン」という起動音に続き、ロシア民謡の音が聞こえてくるという流れがなんともピッタリはまった感じでした。
通信ケーブルを使えば、対戦もできてどこでも持ち歩けるというところも良かったですね。
しかし、そのヒットの影で発売が中止されてしまったゲームがありました。それがセガのメガドライブ版『テトリス』です。
複雑に絡み合っていく『テトリス』の権利
当初、パジトノフ氏と交渉を進めていたのはローバト・スタオイン氏という人物でした。契約直前にロシア科学アカデミー(RAS)の内部組織であるアカデミーソフトが、『テトリス』の権利に関する契約を引き継ぎます。このときにローバト・スタイン氏が結んだ契約は、IBM互換機に関するものだけでした。
しかし、そもそもRASに国際的なライセンスを契約する権利は与えられていなかったため、それをソ連の外国貿易協会(ELORG)が引き次がれています。
共産主義国家だったということもあり、ソ連崩壊まで『テトリス』の権利でお金は得ることができず、パジトノフ氏自身はもっぱら開発者として会議に参加させられるだけの役割でした。
1988年5月に、ELORGよりサイン可能な契約書の最終版の準備ができたという連絡を受け取ったローバト氏。しかし、それよりはるか以前に、ミラーソフトとスペクトラム・ホロバイトにライセンスを販売していました。
ミラーソフトとスペクトラム・ホロバイトは、『テトリス』のサブライセンスを他社に供与しており、その中のひとつにアーケード版の権利をアタリゲームズと契約。さらに、アタリゲームズは、日本向けにアーケード版『テトリス』の権利をセガに供与していました。
『テトリス』の権利を勝ち取ったのは日本にもゆかりのある意外な人物だった
ここでもうひとりのプレイヤーが現れます。それが、アメリカらから日本にやってきて日本初のRPGである『ザ・ブラックオニキス』を開発したヘンク・ロジャース氏です。
日本のPC向けの権利を持っていたロジャースですが、さらに家庭用ゲーム機向けの権利を取得するために動き出します。すでにアタリの子会社のテンゲンに売却されていたことを知ったロジャース氏は、ライセンス契約を勝ち取ります。
この時点で、形的にはテンゲンが米国家庭用向けに、日本ではアーケード版をセガが、家庭用ゲーム機版をロジャース氏が権利を取得した状態になり、その後同氏の会社であるBPSから、PC-9801版やファミコン版の『テトリス』が発売されています。
ゲームボーイの発売の準備をしている最中、ニンテンドー・オブ・アメリカの社長を務めていた荒川實氏に『テトリス』を同梱することをすすめたのも、ロジャース氏でした。同氏は、その後新たな契約を結ぶために仲介役となります。
スタイン氏の契約に不備があったことを見つけた彼らは、その後正式にELORGと家庭用ゲーム機向け『テトリス』のライセンスを締結しています。その煽りを受け、テンゲンからライセンスを受けていたセガは、メガドライブ版の発売を諦めることになりました。
このあたりの詳しい話は、『テトリス・エフェクト』(白揚社/ダン・アッカーマン著)に書かれているので、興味がある方はそちらも読んでみるといいでしょう。
PlayStation 2用ゲームとして復活していたメガドライブ版『テトリス』
さて、発売中止になってしまったメガドライブ版の『テトリス』ですが、どうやらすでにカセットは製作済みで後は出荷を待つだけという状態のときに発売中止となってしまったようです。
そのため、セガの一ヵ所にそのカセットが積まれているという噂が流れました。当時雑紙の編集者でセガの担当でもあった筆者も、なにげなく本当ですか? とい聞いたところ、「ああ、ありますよ」と割とフランクに答えてくれてた記憶があるので、あったのはたしかのようですね。
その後、そのカセットがどうなってしまったかわかりませんが、なんと2011年にパジトノフ氏のサインが入ったメガドライブ版『テトリス』が、「eBay」に出品。100万ドル(約1億円 ※ご指摘を頂き訂正しました)で出品され話題となりました。さらに2016年12月には、日本のヤフオクに箱と説明書のみという形ですが出品されています。
どうやら一部のカセットは、こうした形で何者かによって流出しているようです。
メガドライブ版『テトリス』が発売中止となったセガは、その後『コラムス』というタイトルを作りリリースしています。しかし、完成しているのに遊べないというのはあまりにもったいないと思っていたところ……なんと、過去にPlayStation 2用ゲームとしてリリースされていたことがわかりました。それが、『SEGA AGES 2500 シリーズ Vol.28 テトリスコレクション』というタイトルです。
この時点での最新ルールが適用された『テトリス:ニューセンチュリー』のほか、元祖ともいえるアーケード版『テトリス』に、「テトリス」というタイトルが付いていなかったことからライセンス問題があった後もリリースができた『フラッシュポイント』と『ブロクシード』も収録されています。
しかし、なんといっても目玉なのはやはりメガドライブ版を完全収録しているところでしょう。これについては、裏面にチラリと書かれている程度。内部のマニュアルも各種ライター陣が力の入った文章をいくつも掲載していますが、メガドライブ版に関しては全く触れられていません。
たぶんセガから触れないで欲しいという話があったためだと思われますが、こうしてリリースしているにもかかわらず「ひっそり」という形になっているようです。
しかも、このメガドライブ版は隠しコマンドのようにメニューで機種を「MEGA DRIVE」に合わすことでプレイ可能となります。その代わりといってはなんですが、ゲーム以外にもパッケージやマニュアルといったデータ類も閲覧できるようになっており、やはりコレクターズアイテムとして持っておきたくなるような1本でした。
ちなみに中裕司氏が所有していたメガドラ版『テトリス』を見せていただいたことがあるのですが、オリジナル版では起動時に「セガ」のロゴが出るようになっています。
それにしても全く知らなかったとは言え、こうして幻のゲームに出会える機会があるのはいいことですね!