ちょくちょくレトロゲームショップに行く機会があり、そんなときこれまたよく耳にするのがこのような会話です。
「俺、名前が書かれてるカセット好きなんだよね~。なんか、いいじゃん。愛着があって」
「私、名前が書かれてるカセット集めちゃうの」
そんなとき筆者は、心の中で「うんうん、わかるぞわかるぞ。俺も集めちゃうぞ」と叫んでいるのでした。
そこで、こうしたカセットたちのことをこう呼ぶようにしたのです
「ネームドカセット」!!
こうしたネームドカセットたちは、ファミコンが生まれた1983年頃からその歴史が始まったといわれています。あるネームドカセット研究者は「いや、それが始まったのはゲーム&ウオッチが登場した1980年だ」という主張しますが、そうした事例が発見されたことはあまり多くはないようです。その理由のひとつにあげられるのが、「ゲーム&ウオッチ」は、それ自体がひとつのゲーム機として完結しているからだといえそうです。
それに対してファミコンのカセットは、あくまでも本体のファミコンのオプションとしてのソフトウェアに過ぎません。自宅に設置されているファミコンとは異なり、友達の家にカセットだけを持ち寄り遊ぶというシーンも、決して少なくはありませんでした。
そこで生まれたのが「借りパク」です。
この借りパクというのは、友達のものを借りたまま返さないという行為のことを指しています。筆者も昔、高校時代の友人にビートルズのブートレグのCDを貸したら、そのままそいつがそのまた友人に勝手にあげてしまうという事案に出くわしたことがありました。このように、「友達だから」とういう軽い気持ちが、借りパクを生み、人にっては「市中引廻しの上、打ち首獄門の刑」にしたいところだけどならなかったりという、複雑な心境を生み出していったのです。
そして、それに対抗する手段として登場したのが「ネームドカセット」でした。
名前を自身のカセットに記すことで所有権を主張
自身のカセットに名前を書く。自分の意思なのか、はたまた親の入れ知恵なのかはわかりませんが、こうして人々はファミコンカセットに名前を書いていくようになりました。しかしここでひとつ問題が発生します。そう、ファミコンカセットのどこをどう見渡しても、「お名前欄」などは用意されていなかったのです。
そこで利用されたのが、「カセットについてのお願い」が書かれた背面のシール部分でした。ごくわずかな例ではありますが、表面に名前を書くというパターンも存在するようですが、やはりスタンダードとなっているのは、この背面方式です。
ここに1本のファミコンカセットがあります。表はなんてことのない、『ゴルフ』ですが、裏を見た途端、「おい、この名前が目に入らぬか!」とでも主張するかのように、その名前が大きく目に焼き付けられます。
これは、どこからどう見ても、「荒井久雄」氏のファミコンカセットにほかなりません。いったい、同氏がどのような思いでこのカセットを手放し、それがどういった経緯で今筆者の手に渡ってきたのか……。そうした記録はこのカセットからは読み取ることはできませんが、その本体に刻み込まれた傷や汚れから歴史をいろいろと想像してみるというのも面白いかもしれません。
また、こちらの「ムトウアキラ」氏のカセット。何者かの手によってその存在を抹消しようとしたかのような跡が見受けられますが、そうした歴史の改ざんは決してゆるされる行為ではないということがわかります。
また、つい最近、これまでには全く見たことにないパターンのファミコンカセットが発掘されました。それが、カセット上部に直接ゲーム名を書くというものです。きっとこれらは自宅で大切にしまわれていたときに、上から見たときでも何のゲームかわかるようにするために記載されたものだと考察できます。
このように、まだまだ我々が知らないネームドカセットは、世の中に多数出回っている可能性があります。今後もこうした新しい発見をするためにの活動が続いていきそうです。
text.レトロゲームライター 高島おしゃむ